【専門家が解説】FIP転とは?発電事業者のメリットと留意点

再生可能エネルギー電源のFIP転(FIP移行)について、用語の解説や注目される背景、発電事業者にとってのメリットや留意点などを、ユーラスエナジーホールディングスの西浦寛が解説します。

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解説者

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株式会社ユーラスエナジーホールディングス
パートナー戦略ユニット ユニット長補佐
兼 エネルギーマネジメント戦略ユニット エネルギーマネジメント企画部長

株式会社ユーラスグリーンエナジー
代表取締役社長
西浦 寛

FIP転とは

――再生可能エネルギー(以下、再エネ)電源を巡って、「FIP転」や「FIP移行」という言葉を目にする機会が増えてきました。

(以降、西浦)
2022年4月のFIP制度の開始以降、目にする方も増えたのではないでしょうか。まずは用語を整理したいと思います。「FIP転」とは、「FIP転換」を簡潔にした言い方です。元の「FIP転換」とは、既存の再エネ電源が、固定価格買取制度(Feed-in Tariff:FIT)から市場連動型の制度(Feed-in Premium:FIP)へ“能動的”“戦略的”に転換することを指しています。

一方で、「FIP移行」 は、「FIP転換」よりもより広義の言葉です。既存の再エネ電源がFITからFIPに転換するのみならず、新規認定時に適用される制度の切り替わりなどによって、再エネ全体に占める割合が徐々にFIT中心からFIP中心へ移っていくという意味合いも含んでいます。

◆FIP制度そのものの解説は、こちらの記事もご覧ください。


――ではなぜ、FITからFIPへの移行が必要なのでしょうか?


FIP制度は、再エネを火力などの従来電源と同じ市場環境へ段階的に移行させるための中間的な仕組みと位置付けられています。まずはFIT制度で再エネの普及を進め、一定の規模に達した後にFIP制度へ移行し、最終的には特別な支援がない「電力市場への統合」を図る――FIT制度からFIP制度への移行、そしてその先の支援制度の廃止は、国際的にも一般的な潮流と言えるでしょう。日本の政府もFIP移行を後押ししています。

「電力市場への統合」も重要なキーワードですね。統一的な定義はありませんが、端的に言えば、「電源が電力市場の価格シグナルに応じた供給行動をするようになること」です。ここで言う「電力市場」とは、卸電力取引市場だけでなく、相対卸取引を含んだ広い意味でのマーケット全体を指しています※1。例えば、民間企業がコーポレートPPAによって、FITに替わる長期契約を確保することも、「供給行動」の一種と捉えることができます。

つまり、ある種“発電さえすれば”、エリアごとに決まった送配電会社が全量を長期間、いつでも、決まった価格で買い取ってくれていたFIT電源から、市場価格が日々変動する電力市場の中で自立した電源へと変化していくことが、再エネには期待されているということですね。

  1. ※1再エネ特措法第二条の二に基づく

――FIT電源からFIP転をすると、大きくは何が変わりますか?

FITとの違いで言えば、日々“頭を使う”ということです。FIP電源は、日々発電するのみならず、毎時の発電量を予測し、あらかじめ電力広域的運営推進機関に発電販売計画を提出する必要があります。発電量も市場価格も日々変動するため、計画と市場状況を踏まえた運用が求められます。
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FIT制度/FIP制度の主な制度措置の違い(当社作成)


一方で、市場価格に応じて蓄電池の充放電や積極的な市場取引を行うことで、追加の収益を得られる可能性もあります。いずれにせよ、リスクを低減し、機会を活かして発電量や利益を最大化していくために知恵を絞り、発電事業を戦略的に運営していくことが求められるのです。

発電事業者が注目すべきメリット

――発電事業者にとってのFIP転のメリットは何でしょうか?

発電事業者がFIP転に取り組むメリットは、大きく2つあると考えています。

1.「新規電源開発に必要な知見を早期に獲得できる」
既設のFIT電源を保有する発電事業者の中には、今後新たな電源開発を計画している事業者も多いと思います。FIP以降の電源開発においては、複雑な制度を的確に把握した上で、収益の振れ幅や実務負担・コストの算出、リスクヘッジ方法などを検討する必要があります。例えば相対的にリスク許容度の高い案件をFIP転した上で、運営を通じてリスク分析をし、知見をためていく。今後の電源開発を円滑に進めるための経験が先行して得られるのが、FIP転のメリットです。

2.「事業収益の向上策に挑戦できる」
これは機会でもあり同時にリスクでもあるのですが、再エネ電気および環境価値の販売方法に自由度があるのは、やはりFIT電源にはない特徴です。FIP転によりコーポレートPPAの組成が可能となりますし、オフテイカーとの早期関係構築のきっかけにもなります。蓄電池を併設し電力市場における取引を行うことで、追加の収益獲得を目指すといった取り組みも可能です。

また、政府は「全再エネ電源をFIPへ移行させる」方針を明確に示しており、複数の促進策が用意されています。

――政府によるFIP転の促進策にはどのようなものがありますか?

主なものとして「FIP電源における供給シフトの円滑化(バランシングコストの増額措置)」と「優先給電ルールにおける出力制御順の見直し(FIP電源よりFIT電源を先に出力抑制する)」があります。


「FIP電源における供給シフトの円滑化」は、電力市場価格の低い時間帯から高い時間帯への供給シフトといった、再エネ発電事業者の高度な取り組みが円滑に実施されるよう、事業環境整備を促進することを目的とした促進策です。
具体的には、FIP電源にはバランシングコスト(発電計画の策定や、発電量/市場価格/気象の予測等の対応に要する費用)という名目の補助金が交付されていますが、これを増額するという措置です。措置期間としてはFIP電源比率が25%に達した年度まで、太陽光発電と風力発電が措置対象となります。なお、2025年度および2026年度のバランシングコストの増額分は+1.00円/kWhとされました。


次に「優先給電ルールにおける出力制御順の見直し」ですが、優先給電ルールにおける出力抑制の順番を、FIT電源→FIP電源の順にするというものです。これにより、FIP電源の太陽光発電や風力発電は、当面出力抑制の対象となりにくくなり、事業の予見性が高まることが期待されます。同時に、FIT電源をFIP転するインセンティブにもなる制度です。「優先給電ルールにおける出力制御順の見直し」は、2026年度から開始されます。

とはいえ、出力制御順の見直しによって、既設のFIT電源をFIP転すれば必ず収益性が高まるかというと、地域特性や販売スキームなどの条件によって異なるため、留意が必要です。

FIP転における留意点

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2024年3月、疑似FIT型収入スキームによりFIP制度に切り替えを行った「ユーラス伊達ウインドファーム」。切り替え後、グループの小売電気事業者であるユーラスグリーンエナジーを通じて、電力市場だけでなく、需要家にも電力を販売している

――具体的に、出力制御順の見直しによるFIP電源の収益への影響をどのように捉えれば良いのでしょうか?

まず、資源エネルギー庁の試算によれば、FIP比率が25%に達すると、FIT電源の出力抑制率は、現行制度より約3割増加するとされており、FITのままでは収益低下は避けられません。

一方で、FIP転すれば出力抑制率は低下するものの、収益は現行制度と同程度に留まると見込まれます。さらに、FIP電源では、出力抑制の「上限ルール」(旧ルールでは年間30日、新ルールでは太陽光360時間/風力720時間)が適用外となるため、FIP転によってむしろ収益が下がるリスクもあります。

電源の位置する地域によっても状況が異なり、特に北海道や東北、北陸など、出力抑制率が高まる可能性があるエリアでは慎重な評価が必要です。一方で、九州のように出力抑制率が非常に高いエリアにおいては、蓄電池併設を組み合わせたFIP転のメリットに期待できると言えます。

――販売スキームの違いによっても収益影響の差が出るのでしょうか?

その通りです。FIP電源には主に2つの販売スキーム、市場連動スキームと疑似FITスキームがありますが、それぞれ収益影響が異なります。

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市場連動スキームと疑似FITスキーム(当社作成)

1. 市場連動スキーム
電気価値および非化石(再エネ)価値を市場取引、又は市場価格連動単価で販売するスキームです。出力抑制コマは減少し、発電量が増加するものの、当該コマの卸電力市場価格は0.01円/kWhが通常であり、電気価値の収益増は若干に留まります。非化石価値の収益増は通常単価で得られます。

2. 疑似FITスキーム
再エネ電力/価値をアグリゲーターやオフテイカーに固定価格(一般にFIP基準価格+α)で買い取ってもらい、FIPプレミアム交付金は(同額を)アグリゲーター等に渡すスキームです。出力抑制を免れたコマの発電量も固定価格で買い取ってもらえて発電量比例で差益が得られるケース(契約)は想定されます。
一方で、電気価値の差益分は実質的にアグリゲーター等の持ち出しになるため、それを考慮した契約条件(固定価格等)になると想定されます。※2

国の制度は、市場連動スキームを前提としているものの、実務ではリスク回避のため、疑似FITスキームを選ぶ事業者が多い状況です。理由としては、販売先のアグリゲーターやオフテイカーの信用力が高ければ、相対的に収入が安定する疑似FITの方が、ファイナンス組成が容易なことが挙げられます。

  1. ※2『出力制御の公平性の確保に係る指針』の令和7年4月改正前に契約していた場合は、法令変更に伴う契約条件の見直し協議になり得る

まとめ

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――まさに“能動的”“戦略的”に、自社FIT電源にとって最適な選択が求められますね。

はい、FIP転は明確に完成された枠組みではなく、現在進行形でアップデートされているものだと認識しています。その中で、各発電事業者によって取るべき打ち手は異なりますが、リスクでもあり同時に挑戦のチャンスでもあります。電力市場統合後の未来を見据え、選択肢として検討を進めることが重要です。

◆ユーラスエナジーグループは、豊富な再生可能エネルギー発電事業とFIP転の実績に基づいた、再エネアグリゲーションサービスを提供しています。ぜひお気軽にお問い合わせください。

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